謎だらけ? 森のようちえんについて風りんりん代表に聞いてみた

風りんりんが最も大切にしていることの一つは、子どもの安全。風りんりんとは切っても切り離せない「安全」について、シリーズで掘り下げていく。第二回目の今回は、巷で聞く森のようちえんについての批判的質問を風りんりんの理事長 徳本敦子に投げかけてみたい。そう、今回は子どもではなく保護者の心理的安全性について礎となる情報の透明性について掘り下げる。

話を聞いたひと

鳥取・森のようちえん・風りんりん 徳本敦子

徳本 敦子NPO法人 鳥取・森のようちえん・風りんりん理事長。保育士、子育て支援員、普通救命講習修了、スリップストリーム野外救急法(基本の50時間)、水難学会指導員、CONEリスクマネジメントディレクター、CONEリスクマネージャー、救急救命法メディックファーストエイド ケアプラスコース修了。神奈川県出身。
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和多瀬:今日は、森のようちえんについて、ぶっちゃけでいろいろ質問させてください。

あっちゃん:何でも聞いて!

森のようちえんに通うと、小学校で不登校になる?

和多瀬:最初に聞きたいのは、森のようちえんに関してSNSなんかでよく目にする話。つまり「森のようちえんに通っていた子どもたちは、小学校に進学すると規律やルールに適応できず、不登校になることが多い」という話なんですが、実際のところはどうなんでしょう。

あっちゃん:森のようちえんに通うと、小学校で不登校になりやすいと。

和多瀬:そう。例えばXのこの投稿。

和多瀬:「森の中を自由に駆け回っていた子どもは、授業中にじっとして座っていられないのでは」とか、「団体行動が苦手」「規律やルールを守れない」。それが積み重なって不登校になってしまうのではないかと。

あっちゃん:そういうお子さんは絶対にいないと断言はできないけど、森のようちえん卒園者が特にそうなりやすいというのはどうだろう。風りんりんを卒園した子どもたちや保護者さんから、そんな話を聞いたことはほとんどないかな。

和多瀬:あまり聞かないと。

あっちゃん:学校に行かず、別の場所で勉強してるというお子さんの話は聞くので、全くないとは言えない。でも少ないよ。もしそんな子がたくさんいたら、風りんりんを続けようと思えないかもしれない。

和多瀬:確かにそうですね。

あっちゃん:逆に、小学校の先生から風りんりんを卒園した子どもについて、困っている子に駆け寄って声をかけていたとか、周囲の状況をよく見ていて何が必要か判断して行動できるとお褒めの言葉をいただいたことがあるよ。縦割りのよい影響だと思う。

和多瀬:縦割りというのは、年齢ごとにグループ分けするのではなく、さまざまな年齢の子が一緒に活動するってことですかね?

あっちゃん:そう。だから、年上の子が年下の子に声かけたり手伝ってあげたりというのは、風りんりんでは日常のできごとなんだよね。

和多瀬:なるほど。縦割りという言葉は会社組織では少し悪い印象もある言葉だけど、こと保育の現場ではそういうメリットがあるんですね。

あっちゃん:それから、文科省が毎年調査・報告している、いじめや不登校に関するレポート※1があるんだけど、そこでは、一般的な幼稚園や保育園に通っていたか、あるいは森のようちえんに通っていたか、といった分類、分析はされてないのよ。

和多瀬統計データがない、つまり、こうした言説の根拠はないというわけですね。もちろん、逆のことも言えるわけですが。

あっちゃん森のようちえんは自由、だから小学校のルールに適応するのは難しいというイメージなんじゃないのかなぁ。

和多瀬:一昔前は……もしかすると今もあるのかも知れませんが、保育園よりも幼稚園に通っていた子どもの方が小学校への適応が早いなんてことも言われてましたよね。それが、保育園が森のようちえんに置き換えられたという話なのかも。

あっちゃん:不登校に対する社会の態度は変わってきているけど、選択肢や受け皿はまだまだ少ないこともあって、当事者である家族、特に親や保護者にとっては大変な問題であることに変わりはない。それゆえに、一つの事例が実際よりも大きな事象として語られることはあるかも知れないよね。

毎日野外に出る必要ありますか

和多瀬:これは僕の友人が話していたことで、僕も結構同意するところが多いのですが、それが「毎日野外に出なくてもいいのではないか」ということ。「雨や雪の時くらいは、屋内で過ごしてもいいのでは」と。

あっちゃん:晴れた時だけ外で遊べばいいのに? ということかな?

和多瀬:あ、いえ、そういうわけではなく、月曜日から金曜日、毎日朝から晩まで外で遊ばなくてもいいんじゃないかと。

あっちゃん:では、何日くらいがちょうど良い日数だと思う?

和多瀬:ん〜、まあ、たとえば3日間、とかですかね。

あっちゃん:残りの2日間は、園舎で過ごした方がいいと。その理由は何かな?

和多瀬:ん〜、毎日だと疲れちゃうから? ハードな感じがするというか…。これはあくまで親目線での話になってしまうのですが。

あっちゃん:私が風りんりんで観察している印象では、たとえば気温が高過ぎるだとか、警報級の大雨だとか、とにかく園舎の中で過ごすことがあるのだけど、もう子どもたちはみんな「外で遊びたい〜!」て感じよ。

和多瀬:「今日は園舎だ、ゆっくりできる〜」とかではなく?

あっちゃん:うん、やっぱり子どもたちは外で遊ぶのが好き。それに、さっき「朝から晩まで」と言っていたけれど、実際には午前9時半に園舎を出発して、午後2時半には園舎に帰ってくるから、野外にいるのは5時間ほどなの。

和多瀬:あ、そうなんですね。

あっちゃん:そう、意外と短いでしょ。

和多瀬:なんとなく、朝から晩まで、どんな時でも外で遊ぶ!て感じでした。それで極端過ぎる、もう少しのんびりゆっくりする時間があってもいいんじゃないかと。

あっちゃん:これもさっきの話と同じで、イメージが先行した結果なのかもね。

和多瀬:そうですね(汗)。

鳥取森のようちえん風りんりん

どんな保護者がいるんだろう

和多瀬:もう一つ、よく友人と話していたのが、保護者のことなんです。

あっちゃん:うん。

和多瀬:森のようちえんて、外部、つまり利用していない人から見たら、やっぱり特殊なものに見えるんですよね。一般的な幼稚園や保育園と比べると利用者の数が相対的に少ないから、自分の周りに利用している人がいなくて情報が入ってきづらい。要するに、森のようちえんとの接点が少ないわけです。だから、これまで話してきたようにイメージが先行しちゃってる部分も多いですし、分からない、見えない部分が多くなってきます。

あっちゃん:それは、こちらの情報発信がまだまだ弱いというところもあるよね。

和多瀬:外部から見たら、ある意味「謎」の多い場所に子どもを預けているわけですから、保護者の人たちにはきっと強いこだわりやポリシー、たとえばオーガニック志向だとか、ゲームNG自然遊び最高!といった感じの方が多いのではないかと勝手に想像しちゃうんですよね。そうではない親、つまり自分がそこに入っていってうまくやっていけるのかという不安があるのではないかと。

あっちゃん:これは簡単に答えられるけど、「いろんな保護者さんがいる」ですね。

和多瀬:あ、そうなんですか?

あっちゃん:それこそ虫が嫌いな人もいれば、キャンプやったことないって人もいる。風りんりんのキャンプが人生初キャンプって保護者さんもいるよ。もちろん自然が好きって人もいる。保護者さんの仕事も多種多様だし、こんな人ばかりってことはないね。

和多瀬:となると、やはりお子さんも家ではアニメ見たり、ゲームしたりしてると。

あっちゃん:そう、いたってふつうなのよ。ふつう。

和多瀬:最後の最後まで、やはりこれも、イメージと現実が乖離している可能性がありますね。

鳥取森のようちえん風りんりん

野外で何して過ごしてるのか

和多瀬:最後の質問なんですが、子どもたちは森で何をしてるんでしょうか?

あっちゃん:遊んでる(笑)。スタッフたちがブログを書いてくれているので、そちらを読んでみてください。

和多瀬:今回最初に聞いた質問に通じるのですが、基本的に、野外では子どもたちが自分たちがやりたいことをやって時間を過ごしていて、そこに大人であるスタッフが介入したり、指示したりすることはあまりないわけですよね。

あっちゃん:そうだね。

和多瀬:子どもたちが自分で決めたことに取り組むことに意味がないとは思わないのですが、そこに物足りなさを感じることもあって。何かの資料※2で読んだのですが、日本の森のようちえんは海外のそれと違ってスタッフ、つまり教育者の意図が少ないのではないか、そういう指摘があったんです。

あっちゃん:教育者の意図。

和多瀬:はい。子どもの自主性や主体性を重んじるあまり、教育の意図がやや過剰に排除されてしまっているのではないかと。

あっちゃん:逆に私はスタッフには意図を持って子どもたちと接するように、とは言ってるんだけどね。

和多瀬:あ、そうなんですね。

あっちゃん:どんな意図を持って接するかは状況によって変わるし、スタッフ各自に委ねているのだけど、風りんりんとしては、フィールドでの経験を通じて、「四季を感じる」「五感を鍛える」「想像力を育む」「音楽や芸術に触れる」「土、水、火との関わりを学ぶ」「好奇心やこだわりを大切にする」「他者との関係性」といったものを子どもたちが獲得できるようにという意図があるのよ。

和多瀬:かなりたくさんの要素があるんですね。

あっちゃん:これらの要素を最大化するために、毎日のフィールドでスタッフが意図をもって子どもたちと接するわけ。

和多瀬:なるほど。

あっちゃん:これは子どもに限ったことではないけれど、自分が本当にやりたいことをやっている時が人は一番集中力を発揮できるでしょ。幼い頃から文字が書けるようにとか、算数や英語を教えたりといった幼児教育が人気だけれど、風りんりんは森のようちえんでしか提供できない方法で、子どもたちが心の底から楽しんで遊びながら、たくさんのこと、特に非認知能力を身につけることができる場所だと思う。

和多瀬:さきほど物足りないと言いましたが、子どもたちが頭と体と心を動かして、思いっきり楽しく過ごせる場所の一つが森のようちえんなら、それで十分じゃないか。何を得て、それがどんなことに役立つのかなんて、子どもが子どもらしく過ごせる時間に比べたら何の価値があるのか、なんて考えてしまう自分もいたりします。

あっちゃん:そうだね。大人の意図があってもなくても、風りんりんが子どもたちにとって最高に楽しい場所であるということが一番の土台だし、これは絶対にそうでないとダメだとは思うな。

和多瀬:今日はありがとうございました。

鳥取森のようちえん風りんりん

聞き手、文:和多瀬 彰

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