和多瀬:風りんりんから子どもの安全について聞かれた時のことを教えてください。
中村:かなり前のことなのでハッキリとは覚えてないんだけど、たしか敦子さんが風りんりんをはじめてすぐの頃だったんじゃないかな。
和多瀬:徳本※1経由での連絡?
中村:そうだったと思う。徳本から「中村さんに頼みたいことがある」と連絡が来て、それで敦子さんに会って。開口一番「子どもたちの安全を守る方法を教えてください」と。
和多瀬:なるほど。
中村:ハチに刺された、熱中症になった、火傷をした、雷が鳴りはじめた、川遊びしている時に増水した、地震が起きた……そんな時にどうすればいいのか、そもそもどうやって防いだらいいのか、スライドを使って雑談的な感じで話したな。
和多瀬:鳥取のように自然の多い場所に暮らしていると、その辺の自然で親子で遊んだりすることが日常的にあるんだけど、その場所にどんな危険性やリスクがあるか、事前に調査して準備してってことはふつうせんよね。
中村:そうだな。ある程度は考えたとしても、徹底的に考え抜く、準備するってことはふつうしないよな。
和多瀬:遊ぶ場所で問題が起きることを未然に防ぐ必要があるんだけど、森のようちえんである風りんりんは、それを危険から子どもたちを遠ざけることで実現するんじゃなく、危険とは何かを学ぶことで自分で対処できるようにするわけだから、準備もめちゃ大変そうだ。
中村:フィールドとして使いたい場所にどんなリスクがあるか、そこで子どもを遊ばせていいのか、正しく評価する必要がある。リスクを完全に排除するのではなく、線をどこで引くか、その線を越えようとした時に大人がどう介入するのか……相当な専門知識や技術、準備が必要になる。
和多瀬:具体的にはどんなこと?
中村:俺がはじめて風りんりんと話した時は「野外救急法※2」や「ういてまて※3」など、自分も実践しているものを紹介したかな。今は森のようちえんとして体系だったレクチャーや講座などがあるかも知れんね。
風りんりんが実施する「ういてまて」のトレーニングの様子
和多瀬:全国的に森のようちえんが珍しくなくなってきてるしね。その後、敦子さんたちはどうしたの?
中村:すぐに行動を起こしてたよ。風りんりんが動きはじめていて忙しいなか、すぐに受講し、すぐに「ういてまて」のトレーニングを風りんりんのカリキュラムに組み込んでた。あのスピード感はすごかったね。
和多瀬:あそこの夫婦の行動力はすごいからね。
中村:だな笑
和多瀬:まあ、それだけ子どもの安全に対する意識、現場の責任感のようなものが強かったのかもね。
中村:一般的な保育園でも、よそのお子さんを預かるということには強い責任感とか、危険に対する感度みたいなものは必要だからな。
和多瀬:一般的な保育園だと基本、屋内だったり、柵で囲われた園庭や敷地内という守られた空間なんだけど、それですらリスクはあるし、実際にいろんな事故が日本中で起きてるよね。
中村:森のようちえんは自然の中で保育するわけだろ。柔らかい土や草だから転んでも怪我しづらいといったことはあっても、閉じた建物の中よりはリスクがあると考える保護者も少なくないと思う。
和多瀬:確かにね。
中村:だから、現場の要請に加えて保護者の安心のためにも、野外保育のための専門知識と技術、日々の丁寧な準備が必要になるのは当然だと思う。でも、当然とはいえ、それをきちんと実行して技術や知識、資格を実際に取得するのはすごいことだと思うよ。
和多瀬:森のようちえんといえば、自然の中で自由に思い切り遊んで笑顔いっぱいの子どもたち、みたいな画に関心がいきがちだけど、その裏では安全のためにめちゃ努力してるんだな。
中村:「野外救急法」や「ういてまて」のような知識、技術があると、フィールドの危険性に対する評価のレベルも上がってくるはずだよ。
和多瀬:子どもたちを遊ばせる前に、事前に入念な現地調査をするとのことなんだけど、子どもたちが楽しく、且つ安全に遊べるような視点も鍛えられると。
中村:風りんりんがやってる見守り保育は、一般人から見たら何もしていないように見えるかも知れないけど、安全と危険の線を明確にして、そこはしっかり目を光らせてるんじゃないかな。
和多瀬:今も中村さんがレクチャーしてるの?
中村:もう今はしてないな。なぜなら、専門機関で受講したりする側だった風りんりんスタッフが、今や指導員の資格をとって自分たちが教える立場になってきてるんだわ。
和多瀬:すごいな。
中村:野外での子どもの安全を守る専門家、スペシャリスト集団と言えるんじゃない?
和多瀬:これから夏になるし、僕も「ういてまて」は娘に覚えてほしい技術だな。
中村:「ういてまて」は、正直幼い子どもがやるには難しいんだよ。流れや波のないプールで、ただ顔を出して浮いているだけでも、やってみると難しい。
和多瀬:確かに大人でも苦戦しそう。
中村:だから、水遊びならライフジャケットを着るとか、誰でもできる対策が重要。
和多瀬:とにかく水遊びする場合は、ライフジャケットを着ると。
中村:それが一番間違いない。でも「ういてまて」の技術が不要かと言えばそうではなく、想定されていない事態になった時は身を守ってくれるはず。
和多瀬:道具がない時でも、知識や技術は、突発的な災害にあった場合などは特に有効ってことだね。
中村:子どもたち自身も、自然の中で安全と危険の境界線を察知したり学びながら行動してるだろうし、水遊びする時はライフジャケットを着るという基本的な安全意識を叩き込まれるわけだから、自由に遊んでいるように見えて、実はいろんなことを学んでるんだよな。
聞き手、文:和多瀬 彰
- 敦子の夫である徳本修一さん、本稿のインタビュアー和多瀬もみな元消防士で、若い頃からつながっており、それゆえ呼び捨て、タメ口です笑
- 風りんりんスタッフが受講した野外救急法は、Slipstream Essential Wildernessですが、現在は日本での活動はないようです。野外救急法については、近似のトレーニングを実施しているWILDERNESS MEDICAL ASSOCIATES JAPANのHPを参照ください。
- 水難学会「ういてまて」
(以下、情報整理中)
参考記事
- 厚生労働省「保育所保育指針」
- 厚生労働省子ども家庭局保育課「保育所等における安全計画の策定に関する留意事項等について」
- 保育園の安全計画とは?策定義務化について